Tuesday 24 April 2018

『映画』Gerak Kilat (Operation Lightning/ ガラック・キラット)


20171124
Gerak KilatOperation Lightning/ガラック・キラット)」・・・Singapore International Film Festival
公開年: 1966
製作国: シンガポール
監督:  Jamil Sulong
出演: Jins Shamsudin, Sarimah, Salleh Kamil
見た場所: National Museum of Singapore

 ここ数年、開催時期にシンガポールにいなかったため行けていなかった、Singapore International Film Festival (シンガポール国際映画祭)に久しぶりに行ったのだった。でも、11日間の開催期間中で、見に行ったのは5本だけだった。仕事が忙しかったり、チケットが売り切れだったりしたためだが、そのうちの3本は、クラシック映画特集からの作品だった。今年のクラシック映画プログラムはスパイ映画の特集で、そのタイトルも「Secret Spies Never Die!」。1950年代から80年代までのアジア各国のスパイ映画6本を集めて上映を行い、映画研究者によるパネル・ディスカッションも行われた。行けたら全部見ても良かったくらいだった。1967年のタイのスパイ・コメディ「Operation Revenge」など、いかにも面白そうだった。しかし、そう思っている人間はシンガポールにはあまり多くなかったらしく、観客の少ない上映もあって残念だった。今や日本でもそうではなかろうかと思っているのだが、シンガポールでは、わざわざお金を払って昔の映画を見に行く人はそうはいないのだ。

 さて、この「Gerak Kilat(ガラック・キラット)」である。1962年に「007 ドクター・ノオ」が公開されて以降、ジェームズ・ボンドとスパイ映画ブームはシンガポールにも及んだ。マレー語タイトル「Gerak Kilat」、日本語で「電光石火」とでも訳すことのできるこの映画は、「シンガポール国自身のジェームズ・ボンド」、Jefri Zain(ジェフリ・ザイン)を主人公としたスパイ・アクションものである。製作は、映画会社ショウ・ブラザーズのマレー語映画製作会社であるMalay Film ProductionsMFP)。かつてシンガポールのJalan Ampasにスタジオを持ち、P. ラムリーを代表とするスター達の映画を製作してきたMFP落日の時期の作品である。しかし、この「Gerak Kilat」はヒットし、続編が製作されてシリーズ化されていった。

ヒーローのジェフリ・ザインと仲間の女性スパイ、ティナ

 ある日、海水浴客で賑わうチャンギ・ビーチ(というところからしてローカル色豊か)に男の死体が上がった。男は、秘密諜報員ジェフリの仲間で、何者かによって消されたものらしい。ジェフリは、殺された仲間の残したネガフィルムから、大量の武器を保有する巨大な地下組織の存在を知る。平和のために、このどこにあるかもわからない謎の組織を壊滅させよう!といきり立つジェフリ。一方、ネガフィルムがジェフリの手に渡ったことを知った悪の組織は、彼の正体を突き止め、フィルムを取り戻そうと画策する・・・。というように、話は始まっていく。

 映画の冒頭、殺される諜報員が海岸の岩場を逃げているのだが、その後を追うのは、悪の組織のナンバー2か3の通称「Botak」(マレー語で禿げのこと。Botak氏は禿げているというかスキン・ヘッドである)。海岸に向かう斜面を駆け下りる、強面のBotak氏の走り方が女子!肘から上に挙げた腕を、外側に向けて走る姿が女子!なことにまず驚いた。いや、これがBotakのキャラクター設定からくるものだったら別に驚かない。でも、明らかにそうではない。たぶん足場が悪いので急いで下ろうとしたら、自然に腕がああなってしまったんだろうと思う。ここは監督がダメを出すべきところではなかろうか。冒頭にあるべき緊迫感がだだ崩れである。さらに、この諜報員の死体が発見されるビーチの、第一発見者である白人カップルのセリフが棒読み!またしても萎える緊張感。

 最初のうちからこんなユルさを見せられて、大丈夫なのかこの映画、と思ってしまった。と思ってしまったのだが、以降だんだん調子が上がって来て、結果的にはなかなか楽しいスパイ映画になっていたと思う。高い予算をかけて作っているようには見えない。しかし、そのつつましい予算で、ジェフリの自宅地下の秘密基地やちょっとした発明品、海底に入口を持つ悪の組織の巨大基地など、いろいろ見せてくれる。ジェフリの自宅が高層マンションではなく、しゃれた平屋の一軒家というところに、時代を感じた。場所がシンガポールの設定で、今これはあり得ないなーと。当時のシンガポールの風景は、今のように(高層ビルやアパートで)縦長になってはいないのだ。

 ジェフリのガールフレンドが誘拐されて殺されたり、ジェフリ自身も死の危険に曝されたりするのだが、全体的にのどかな印象。「007」の東南アジア版を見ているというよりは、なんとなく少年探偵団的な、子供向けの冒険活劇ものを見ているような気持ちになる。たぶんどことなくゆとりを感じさせる作りだからだろう。例えば、悪者を追ってジェフリがシンガポールの街中を走り続けるシーンなど、長い長い。Capitol Theatre周辺など、ありし日のシンガポールの姿を見ることができて興味深い。が、もう少しメリハリをつけてほしいと思う。加えてジェフリのキャラクターが、複雑な過去を背負ったクールなタフガイ、というようなものではない。ちょっとハンサムな近所のお兄さんという感じ。どんな時でも不敵な笑みを絶やさないというよりは、あまり何も考えていないのでは・・・と思ってしまう。仲間の中の紅一点、焼き餅焼きのTina(ティナ)とのやり取りも、なんだかラブコメみたいである。

 そんなわけで、南国(だからなのか?)のゆったり感を備えたスパイ映画「Gerak Kilat」、仕事帰りの金曜の夜(だった)に見るにはふさわしい楽しい映画だった。なお、ここで私が悪の組織、悪の組織と繰り返しているのは、最後まで見ても悪の組織の組織名がよくわからなかったからである。ボスが、Commander Jeeman(ジーマン司令官)と名乗っているのはわかった。しかし、どこの何という組織だったのか・・・。構成員の制服も、男性は半袖ワイシャツにジーンズ、女性は全身黒タイツという質素さで特徴がない。そもそも組織名以前に、武器を集め構成員に戦闘訓練を施している彼らの目的がなんなのか、それも最後まで定かではなかった。しかしそれを言うなら、ジーマン司令官が知りたくて知りたくてたまらなかったこと———ジェフリが所属している国際的な組織(らしい)がなんなのかも、やはり最後までわからなかった。いや、ジーマン司令官じゃなくても、私も知りたかったよ。201818日)

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